開業前はこんな未来がくるとは思っていませんでした

8月下旬に差し掛かって、やっと夏休みに入ったような気分になれています。

これまで貯めておいた、お客さまからいただいた直筆のお手紙を収納棚から出し、机に広げ、どこに何を貼るかに悩みながら、1枚ずつのり付けをしてノートに貼る余暇。

大小異なるお手紙をながめて、手渡してきてくれた方の顔を思い出しながら、パン屋とは不思議な仕事だなと考えていました。焼いたパンを売り対価をいただく。それだけで十分なのにお礼を言ってもらえる。お手紙までいただけるなんて、開業前は想像もできませんでした。

仕事を通して心が震えるような喜びを得る。誰かの役に立てているのだと肌がヒリつくような感覚。心深くに突き刺さってくる、容赦のないプラスとマイナスの感情。もっと良くしなければならない焦り。私に足りないものは一体何だろうか、足りない気がするんだ。他店と差別化をするには、誰にも真似されないくらいのオリジナリティを持ち、突き抜けていくのだと覚悟を決めなければならない。

思い起こせばこれまでの人生のなかで、仕事を通してここまで揺さぶられるのは、初めてだとハッキリ言えます。

なんの使命感も、やり甲斐もなく、お金のためだけに言われた業務をこなす。時計の針だけが気になる。早く帰りたいと考える。仕事で得たお金は苦痛に耐えた対価である。年齢的には成人を過ぎていたけれどほとんど子供と大差ない年頃には、そんな価値観がありました。

個人事業主として仕事をはじめた頃、雇われよりも自由度は高くても、誰かの役に立てている感覚はなく、やってよかったと心底思いもしない。それは私が同じ位置にいるから悪いのだとステップアップをしても、囲の中でもがいているだけで将来性は感じられない。何より私が幸せになれそうもない。ああ、潮時なんだと。

だから今、お店をやらせてもらい、仕事と真正面から向きあえている。やりたいことを、やれている。この先の未来もみえる。怖いけれど見ようとしている。私の努力次第で困難は乗り越えていけるし、無謀な挑戦も叶うはずだ。いや、そう信じていると思える現状に対し、”幸福”の二文字だけでは事足りないくらいの気持ちでいるのです。