銀行から借りるお金が多いほど世の中の役に立っている

「私は産業を作り、誰かが働ける場所を作るのはいいことだと思っているよ」

千葉県の南に位置する、千葉県南房総市。フロントガラス越しに、右手には永遠と続いているのではないかと思うくらいの水平線が広がる。波が規則的におきて白い泡になって消える。海水がなにものかに吸い込まれるように引いていく。古びた日本家屋、シャッターが降りて錆びたままの商店。一瞬みただけでは理解できない、崩壊しかけたよくわからない建物。早々と景色が切り替わる。

夫はハンドルをにぎり、わたしは助手席に座る。今日の宿に向かう。宿の近くには明治2年、日本で2番目に点灯した灯台があるという。

座りっぱなしで身体は動かせないが脳みそは動く。仕事の話をする。ああしたいね、こうしたいね。取り留めもなく脳内に浮かんだことを言葉にする。多分、夫に話すことで、まとまりのないアイディアを整理をしているのだ。

「私は産業を作り、誰かが働ける場所を作るのはいいことだと思ってるの。地域の人を巻き込んでひとつの経済活動の場を作る。働きに来る人の収入源を確保する。そのご家庭の生活を作る、というのは大きな意味があるよね。施設を作りたいね。いくら借りなきゃいけないんだろう。何億円とかかな。銀行から貸してもらえるようにしなくちゃっね。借りられるかな。もし仮に作れたとしても、作って終わりにしたくないね。せっかく立派な施設を作っても廃墟にしてはもったいない。続けないと。私さ、観光地になっているような施設ってとても世の中のためになっていると思うんだ」

「銀行から借りるお金が大きいほど、世の中の役に立っているんやと思うで」

前を見たまま夫が言う。とりとめのない話しに、ひとつの区切りをつけるみたいに。赤信号で止まる。フロントガラスを覗き込むようにして外の景色をみると、すぐ左手に先ほどと見たような古びた日本家屋が見える。

「こんなちっぽけな私でもさ、世の中のために働いて、死んでいけたらいいな」