「現状が今のまま続くことはないから、そこに執着しないことだよ」
ある晩。夫と仕事の話をしている時に、こんな話題になりました。
せいわやの店舗はオーナーからお借りしている物件です。オーナーには頭があがらないくらいよい条件で居させてもらえるのは大変有難いかぎりですが、この状況がいつまでも続く補償はない。
50坪の畑もお借りしているもので、もしかしたら持ち主から「出ていってくれ」と言われる日がくるかもしれません。
はたまた、今在籍しているスタッフ達が半永久的に働いてくれるわけではないでしょう。頼りになり、信頼できるスタッフばかりで、いつまでも居てほしい。でも、各個人のライフプランの変化や、別の勤務先に移りたいなどの決断には介入できません。もちろん、働きやすい環境を作るのは私の仕事です。
ただ、生きていれば現状は変わっていくものです。押し寄せるさざなみのように、上流から下流に向かって流れる川のように。私もそうであったから今、せいわやをしています。
グラスフェドバターが大幅値上げ 物価高騰の大打撃
物価高騰の波がせいわやにも訪れそうです。愛用してきたオーストラリア産グラスフェドバターが大幅に高騰しました。値段を見た瞬間、両目に激痛が走り、抑えずにはいられませんでした。
その他、輸入品は数百円単位で値上げしています。値上げはどんどん続いていくのだろうな。そんな予感がしています。
大幅な打撃を受けそうなのはマフィンとスコーンです。
マフィンには北海道産有機小麦粉を100%使用し、グラスフェッドバター、未精製のお砂糖の素焚糖、成分無調整牛乳、卵、アルミフリーのベーキングパウダー。私たち自身も安心して食べられる原材料でお作りしています。
お客さまから「子どもがパクパク食べていた」という話はよく耳にするのですが、その度にいい材料で作ってよかったなとホッとします。胸を撫でおろすとは、こういうことかと思い知らされます。1〜2歳の成長に関わる大切な時期。当店の商品を信頼していただき、身が引き締まる思いです。
スコーンには北海道産有機小麦粉、北海道産小麦粉をベースに、メニューによって全粒粉とライ麦を加えています。その他はマフィンと同じく、未精製のお砂糖の素焚糖、成分無調整牛乳、卵、アルミフリーのベーキングパウダー。
粉に対してかなり多いグラスフェドバターを配合しているため、ショートブレッドに近いサクッとした食感です。小ぶりですがバターの風味が強く、小さくても満足感が高く、大人のお菓子のような商品です。
愛着のある商品を手放す
オープン当初、自家製酵母のパンのみを焼いていました。すぐに焼菓子で商品化できるものといえば、作り慣れていたマフィンとスコーン。
とある人気飲食店で働いていた頃。色々なセクションに関わりましたが、終盤は1人で菓子製造を任せていただいていました。マフィン、プリン、シフォンケーキなど。人気店で製造量がとても多くヒーヒーする日々。今となっては有難い経験です。委託販売時代も職場とレシピが被らないようにしながらマフィン、スコーンも出品。
という理由で、せいわやにもマフィン、スコーンを。
定番メニューとしてお出ししてきた両者。グラスフェドバターを多く使用し、原価計算するとまあ両目が潰れそう。値上げするくらいなら、やめるのもアリではないかと考えています。
レシピは変えたくない。味が変わってしまうからです。今の味を好いてくれる方に対しては裏切りになるような気がします。特にバターの配合量を変えると食感、風味が変わります。色々試した結果、今の配合がベストなのです。
なぜこれまでマフィン、スコーンを続けてきたのか?を考えると、私個人の愛着が強かったから、だけなのです。よく考えればどうしてもマフィン、スコーンでならなければいけない理由はない。なら、執着しなくてもいいのではないか。
(マフィン、スコーンが好きだと言ってくださる方もいます。完全にやめてしまうのは寂しいので、予約販売・通販限定でマフィン&スコーン便もありかなとも思っています)
変革と苦痛と
何かを手に入れるには、何かを手放さなければならないように、変革を起こすには苦痛を伴います。
ここでの苦痛とは、愛着のあった商品であるスコーンとマフィンを思い切ってやめてみること。代わりに新しい商品を加えれば、お客さまも喜んでくださるかもしれないし、その商品を好いてくれる方が現れるかもしれない。新しい風が吹く。苦痛は悪ではないのです。
新商品をショーケースに並べるには様々な工程が必要です。通常営業用の仕込みに加えて、新商品の試作を何度かしなければならない。例えば低温長時間発酵で作る自家製酵母のクグロフ。酵母の用意、こねあげ、1次発酵に12時間以上、2次発酵に2時間、焼成に35分ほど。焼菓子のように短時間で完成しません。でも、生地は深い味わいが生まれる。豊かなデニッシュ生地。
新商品を生み出すのは大変なのですが、これも自分に対して変革を起こす苦痛であり、やはり悪ではない。
「キツイな〜」を乗り越え続けると、仕事ってどんどんできるようになります。