せいわや

千葉県船橋市の住宅街で自家製酵母のハードパン・ドイツパン専門店を営む傍ら、農業をしている店主の備忘録です

石臼挽き製粉機で自家製粉 酵素活性を過剰に傾けず全粒粉100%のパンを作るには

ハードパン・ドイツパン専門店せいわやでは2024年10月に石臼挽き製粉機を導入しました。

北海道産玄麦(製粉前の小麦粒)を仕入れ、製粉機で挽き、自家製酵母で発酵させて焼く。

「玄麦-くろむぎ-のパン」として販売しています。

小麦の風味を最大限に味わいたい。全粒粉100%の自家製粉、自家製酵母、水、塩のみのパン。健康志向のお客さまに人気です。

自家製粉のみ。なおかつ全粒粉100%のパンを作る上で大きな問題になるのが酵素活性です。

酵素活性が過剰に傾くとグルテンがつながらず、生地がベタつく。ダレるなどの不具合が起きます。酵素と温度は密接に関わり、季節の変化ととも対応を変える必要があります。

酵素活性のリスクがある上に、

  • 加水率100%
  • 酵素を死滅させていない湯種を加える

とても難しい製法でお作りしています。酵素活性を抑えたいのに、酵素を死滅させない65℃以下で湯種を加える矛盾。

酵素活性を過剰に傾けずにしっかりグルテンをつなげていい生地を作るには、どうすればよいのか。

ある日、生地がドロドロに

製粉機を導入した2024年10月〜3月頃までは何も考えずともいい生地が作れていたのに、室温が20℃を超えるのが当たり前になっていたある日。

玄麦-くろむぎ-のパンを仕込んでいるといつもと様子が違う。何かがおかしい。分量は確実に間違っていないのに生地のつながりが悪く、パンチをしてもドロドロするばかり。

もしかすると酵素活性が過剰に働いているのでは?予想は的中。

反射的に「冷やしたほうがいいのでは?」と判断し、冷蔵庫で冷やしながらパンチを何度か入れていくと少しずつ繋がってきたのです。

さらにひと晩冷やすと、ベストな状態とはいえませんがグルテンができていました。

酵素活性をさせずに全粒粉100%のパンを作るポイントは”熱”

小麦の表皮には胚芽、胚乳を含み脂質、酵素が豊富に含まれています。

製パンに関わるのは主に以下の酵素です。

  • アミラーゼ(でんぷん分解酵素/発酵促進)
  • リパーゼ(脂質分解酵素/酸化臭・雑味の原因)
  • プロテアーゼ(グルテン分解酵素/生地がベタつく・ダレる)

挽きたての粉はこれらの酵素が活性化した状態。すぐに仕込むと生地がつながらないなどの不具合が起きます。

酵素活性を抑えるには、冷やすこと。寝かせること。いかにして熱を加えずに製粉するか、なのです。

熱を抑えるためには

季節によって製粉速度を調整

導入している石臼挽き製粉機では1時間で約1kgのペースで製粉しています。

温かい日は玄麦が落ちる量、石臼の回転速度を落としながらさらにゆっくり挽くように調整しています。

夏場なら冷房をかけて室温をさげる必要もありそうです。製粉時に摩擦熱を抑えると、酸化をふせぎ風味向上にもつながります。

ひと晩以上、室温で寝かせる

挽きたての粉は寝かせておくおど酵素活性は弱まっていきます。最低、ひと晩は室温で寝かせると◎心配なら数日寝かせてもOKです。

ただし、これを書いている現在(2025年5月)ではひと晩だと酵素活性は落ち着ききれていない印象があります。

寝かせたからといって酵素がゼロになっているわけではないので、温めれば活発になります。

生地のつながり方をみていると、こねあげ温度、発酵温度には十分注意しなければならないと体感的に思います。

では、何日も寝かせた粉を使えばいいのでは?となりますが、寝かせるほど風味は落ちていきます。実際に製粉翌日の粉と、製粉から1週間経過した粉とでは風味に大きな違いがありました。

すぐ仕込みたいなら冷蔵庫でひと晩冷やす

春〜夏でも製粉翌日には仕込みたい。そういった場合は冷蔵庫で冷やしておくとよいです。

  • 室温で寝かせただけの粉
  • 冷蔵庫で冷やした粉

では生地のつながり方に違いました。

湯種は必ず冷蔵庫で寝かせてから使う

冒頭でもお伝えした通り、65℃以下で湯種を作っています。すぐに仕込みには使わず冷蔵庫でひと晩寝かせたものを使います。

湯種が温かいまま生地に加えると、こねあげ温度が高くなりやすい。酵素を死滅させていない湯種=酵素活性が起きやすい。湯種は出来立てだと熱の加わりにムラがあるためです。

酵素が生きているため挽きたての粉と同様に「寝かせる」、「冷やす」で扱いやすくコントロールします。

※湯種の酵素をある程度残すことで、パンの甘み・旨みにつながり風味を向上にも役立てられます。

こねあげ温度、1次発酵の温度は低めに

2025年5月現在、室温22〜24℃の環境下の場合。

オートリーズ開始の時点で生地温19〜20℃

ミキシングを進めこねあげ温度23〜24℃にとどめる
(足し水の温度を要調整。もう少し低くてもいいかも)

1次発酵 30℃で進める

1時間後にパンチ1回

さらに1時間〜1時間半発酵後、冷蔵熟成

復温、ベンチ、2次発酵を経て焼成
(2次発酵の温度は冬場より低めがよい)

この手順で進めると、無事いい生地に仕上がりました。夏場はもっと低めにこねあげる必要があります。

経験上、こねあげ温度を誤って高くさせるなどして仕込みの際に酵素活性が過剰に傾くと、その後リカバリーとして冷やしたとしてもどうしても骨格の弱いパンになります。

仕込みの段階でいかに酵素活性を抑えながら、オートリーズ、ミキシングをしてグルテンをしっかり出すのが肝心だという結論になりました。

疑問 温めたら酵素活性が復活しグルテンは崩壊するのか?

酵素は冷やすと活動が停止〜ゆるやかになる。温めると活発になる性質があります。

では、再び温めたら生地がドロドロになる恐れがあるのでは。

ミキシング終了の時点で問題がなければ、その後の過程で一グルテンが崩壊していくことは今のところありませんでした。

が、冬と春と比較すると、グルテンのつながりは悪いご様子。前述のとおり、こねあげ温度、1次・2次発酵の温度は調整するとよさそうです。

真冬では1次・2次発酵の温度を35℃に設定していたところ春になってから30℃に下げるました。室温が高い分、発酵スピードには影響は今のところありません。つながりが悪い分、1次発酵中のパンチを増やして調整してもいいかもしれません。

酵素が目に見えたらいいのに

何はともあれ、酵素という見えない物質と仲良くするのは難しい。

さまざまな推測をたて、対策をとり、実践を重ねてデータをとっていくしかありません。1番頼りになるのは自分の経験値です。

オーブンの中で膨らんでいく姿をみて初めて安心できるのが、せいわやの玄麦-くろむぎ-のパン。涼しい顔をしているように見えるかもしれませんが、いつも冷や汗をかいています。

だったら難しい製法でわざわざ作らなければいいじゃない。 でも、やる価値があるんですよね。